おばけを見たことがない。

一度もない。

でも、夜中のトイレは怖かった。

深夜のトンネルも怖い。

使われなくなった防空壕なんて、昼でもちょっと嫌だ。

見たことないのに。

なんでだ。

読む前に、10秒だけ考えてみて。

おばけって、何が怖いんだろう。

真っ昼間の病院と、深夜2時の病院。

建物は同じだ。

廊下の長さも同じ。

ドアの枚数も同じ。

物理は何も変わっていない。

でも、深夜2時の病院には、何かが追加されている。

出そう。

たった三文字で、ただの廊下がもう嫌になる。

おばけは、怖いブランディングがうまい

白い服。

長い髪。

井戸。

古い病院。

トンネルの奥。

顔も名前も知らないのに、ブランドカラーはだいたい白だ。

しかも、はっきり姿を見せない。

ぼやける。

遠くにいる。

一瞬だけ映る。

見間違いかもしれない。

この「かもしれない」が強い。

怖がっていたというより、怖さで遊んでいた

昔、心霊写真っぽいものが撮れたことがある。

子どもだった。

友達と集まって、写真を拡大した。

「ここ、顔じゃない?」

「いや、木だろ」

とか言いながら、かなり盛り上がった。

怖がっていたというより、怖さで遊んでいた。

本物なら困る。

でも、偽物だと確定するのも少しつまらない。

いるかもしれない。

あの距離が、ちょうどよかった。

おばけは一人で会いたくない。

でも友達となら、ちょっと探したい。

かなり面倒なファン心理である。

怖い地方創生

地域ごとに、おばけが違うのもおもしろい。

河童。

座敷わらし。

雪女。

天狗。

危ない川や山に、怖い物語が貼られてきたこともある。

今は心霊スポットとして人が集まる。

怖い地方創生だ。

話を聞く前は、ただのトンネルだった。

「ここで昔、人が亡くなったらしい」

そう聞いた瞬間、トンネルの奥行きが変わる。

何も変わっていないのに、もう振り返りたくない。

想像力が勝手に残業を始める

暗い場所を警戒するのは、本能なのかもしれない。

でも、トンネルの先に白い服の女を置いたのは想像力だ。

暗い。

静か。

一人。

ここまでは場所の仕事。

そこから先は、想像力が勝手に残業を始める。

物音がする。

気のせいだと思う。

でも、もう一度する。

見ない方がいい。

でも、後ろにいるかもしれない。

熊なら逃げ方を調べられる。

泥棒なら警察を呼べる。

おばけは、何をすれば正解なのか分からない。

走るのか。

見ないふりをするのか。

塩なのか。

ルールがない。

だから、想像力を止める方法もない。

今日のところは、こう思う

おばけが怖いんじゃない。

おばけが出そうな場所で、自分の想像力が勝手に仕事を始めるのが怖い。

暗闇は、何も見せない。

その代わり、こちらが何を置いても否定してくれない。

おばけは存在ではなく、余白なのかもしれない。

何もいない場所に、自分で何かを置く。

そして、自分で置いたものに自分で怖がる。

だいぶ人間っぽい。

今日のところは。

でも、たぶんまた変わる。